障害福祉サービス事業所の人材養成と強度行動障害③

○ イノベーションと人材養成

4月1日掲載の『障害福祉サービス事業所の人材養成と強度行動障害②』では、添付図の(A)研究、(B)支援者、(C)事業所、(D)地域の4つの大きな変化が必要だと書きました。そして、強度行動障害者支援に携わる立場からは、この変化とは、まさに変革を起こし社会に新たな価値をもたらす「イノベーション」に相当するものだとも書いています。少々大げさですが、それくらいの変化を起こさないと、壁を崩すことができないことを強調したかったのです。

一方、この研究事業の目的は、「(B)支援者」の人材養成と「(C)事業所」の支援の質向上をつなぐ方策を明らかにすることです。さらに噛み砕くと、「構造化された支援」や「根拠のある支援のための記録」を重視した標準的支援を、支援者が習得し、多くの事業所であたりまえのように実施できるようになるために、何を行えばいいかを探り、実用的な提案を行うことです。

標準的支援とは、支援者からすると、事業所における日常業務(多くは定型業務)であることを忘れてはいけません。特別な場所で、魔法のような支援を、時々、短時間行うことではありません。日々の支援の開始から終わりまで、すべての時間が対象です(例:午前9時から午後4時まで支援を提供する生活介護事業所では7時間すべて)。その都度その都度、何人もの職員が議論し、アイディアを絞り出すことが必要なものでもありません。障害福祉の分野では、日常業務のすべてが定型業務というわけではありませんが、かなりの割合はある程度ルーティン化されているはずです。

標準的支援を上手に活用し、強度行動障害者支援の実績をあげている先駆的な事業所において、日常業務として提供している標準的支援は、頭を使い、悩みながら取組むものではなく、大部分がルーティン化されています。標準的支援とは、ある面、実直に無理なく、日常業務を継続していくことでもあるのです。

事業所における人材養成は、イノベーションということばが似合わない、いたって地味な活動です。事業所にはじめて配属された支援員が、最初に学ぶ「日常業務」を見直す取組みです。

○ 日常業務を遂行するには

企業等における人材開発は、多くの教科書において、次の3つの概念に分けて説明がなされています。

●自己啓発(SD):個人が自分のレベルをあげようとする行為
●Off-JT:職場外での教育・研修(人事諸制度の一部であるOff-JT)
●OJT:実務場面で成果をあげるプロセスを通してスキルとマインドの向上

※香本裕世著:「会社を変える」人材開発(プロのノウハウと実践)光文社新書

OJTとOff-JTの特徴については、2020年1月19日に記した『(寄り道)アンケート結果をどう解釈するか③』で記しましたが、本研究事業の基礎部分ですので、後でまた振り返ります。

http://kyoudokoudousyougai.seesaa.net/article/473241847.html

新たに障害福祉サービス事業所で働くことになった支援員は、その事業所固有の日常業務を遂行することが最初の目標になります。もちろん、ある程度の規模の組織では、事前の組織内Off-JTとして、「組織の理念」「沿革と事業内容」「職務上の倫理や就業規則等」「労働安全衛生関係」等の座学研修を現場に入る前に行っていると思いますが、配属先で最初に習得すべきは、その事業所の日常業務です。

わざわざ説明する内容ではないと思いますが、日常業務を習得するには、以下の3つのプロセスがあります。

①知識を学ぶ:事業所固有の用語と意味(意外と多い)、業務内容や日報・記録について、参加する会議、1日・週間・月間・年間の標準的な行事予定等、マニュアルや先輩からの口頭による教えで学びます。知識無くしては、先に進めません。この知識とは、原則、明示(言語化)されているものです。

②スキルを身につける:知識を学べば、事業所で求められる業務をこなせるとは限りません。例えば、日々の支援記録についても、指定のフォームにルールに則り記載したにしても、情報伝達として価値ある状況に着目し、その顛末をわかりやすく記載するスキルが必要です。多くの日常業務は、明示(言語化)された知識を補足する、暗示的(非言語化)な行動の塊です。日常業務をこなしながら、その都度、上司や先輩からの指摘を受け、手本を観察し、質問等で疑問をぶつける等を繰り返しスキルを身につけていくことになります。為すことによってスキルは身につくのです。

③習慣を続ける:知識を学び、スキルを身につけても、それを継続できなければ日常業務の習得とは言えません。気分や体調、チーム編成の変更等に左右されずに、余裕を持って日常業務を継続できなければいけません。事業所で勤務を続けるということは、一定の経験を積めば、日常業務以外の突発的な対応、非定型・非定常的な役割を担うことも期待されます。日常業務は、余裕を持ち、習慣として続ける必要があります。

強度行動障害者支援の標準的支援の大部分は、この日常的業務に相当するものであり、原則OJTで学ぶものです。

○ 寄り道

このブログをはじめてから、企業の人材開発に関係する書籍やネット情報を読む機会が増えました。25年ほど前、はじめて福祉施設の管理職になったときも、何冊か読みましたが、雇用環境の変化や人材の流動化が加速した影響なのか、人材開発に関係する情報が本当に増えました。内容も随分違います。でも、私が参考にしている本の多くは、その著者が私より年配の人のものばかりです。例えば、次の本にはこんな文書がありました。

「企業の育成活動は、親の子育てや小学校教員などとは本質的に違います。企業の育成は、常にコストパフォーマンスが求められるからです。極端な言い方をすると、育つ人間を育てて、育たない人間は育てないということを認めないといけないのです。」

※高原暢恭著:人材育成の教科書(悩みを抱えるすべての管理者のために)労働行政出版

確かに「その通り」なのですが、「障害福祉サービス事業所では”育てる”と”育てない”の水準をどう考えるか」、簡単に答えを出せない悩ましいテーマです。さらに、障害者雇用をサポートする仕事を長く続けていたので、”育てる”と”育てない”の水準が、雇用責任者と食い違う経験を何度もしています(雇用責任者から教わることもそれ以上にありましたが)。

そして気づいたことですがありました。人材養成について、厳しい文書で、ストレートに問題を突きつけてくれる「人材育成の教科書」は、いくつか読んだ書籍の中で、もっとも労働集約的で低賃金の人材育成まで想定した本でした。より広い労働者をカバーしている、「優しい」書籍でした。

コンサルテーションやスーパーバイズをテーマに研究事業を実施していくと、どうしても華やかな、ハイパフォーマンスの人材を育てることと考えてしまいますが、決してそうではありません。定型の日常業務を実直にこなす人材養成と仕組みを重視しなくてはいけないテーマなのです。
(つづく)

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